ある歯科医のつぶやき・・・。 (お母さんに読んでいただきたくて)


虫歯を治療したらそれで安心ですか?
よく病気が治癒するといいます。治癒とは、体が元どおりに治るという事です。
ところが、虫歯はけっして元どおりには治らないのです。
では歯医者は一体何をしているのでしょうか。それは、虫歯になった部分をきれいに除去して、人工物をつめたり、かぶせたりして、歯を修理しているのです。
当然、修理されたものは、元の健康な歯に比べれば弱いのです。お子さんの歯を虫歯にしてしまった原因を、かかりつけの歯医者さんと共に考え、お子さんのお口をとりまく生活環境を改善していかないと、修理済みの歯もたちまち故障してしまいます。
「虫歯を治した歯は、もう虫歯にかからない」と、けっして安心してはいけません。
もう一度、虫歯にしてしまった歯は元どおりには戻らない、ということを肝に銘じてください。

虫歯予防は歯磨きが一番なのでしょうか?
虫歯の治療で、お子さんを診療所に連れてきたお母さんに、「どうしてこの虫歯はできたのですか?」と質問すると、たいてい「歯磨きが上手にできなかったから…」という答えが返ってきます。私はさらに意地悪そうに「それから後は何かありますか?」というと、「おやつに甘いものが多く…」と、だんだ ん声が小さくなってきます。本当に虫歯ができた原因は、歯磨きの不徹底だけからでしょうか。口の中をのぞいてみると、案外きれいにしているにもかかわらず、奥歯の歯と歯の間がみんな 虫歯になっていたり、人によっては、上の顎の前歯に集中して重度の虫歯になったり、その子その子によって、いろいろな虫歯のパターンがあります。甘いもの が好きなお子さん(ほとんどのお子さんがそうですが)に、虫歯がない場合もあれば、おやつの与え方には気をつかっている、というお母さんのお子さんの口の 中に虫歯が多数あったり、仕上げ磨きはしていないんです、というお母さんのお子さんの口の中に虫歯がなかったりもします。

もし自分のお子さんの口の中に虫歯が見つかった時、すぐ歯磨きが足らなかったなどと思わず、生活全般を振り返ってください。

お子さんの口の中の状態は、生まれてから今まで、その子をとりまく環境の積み重ねの結果です。もちろん、人は虫歯をつくらない為に生きているわけではありません。子供は健康にすくすくと育ってほしいと、すべての親は考えます。
健康に育てる事、これすべて虫歯予防なのです。

親の仕上げ磨きは幼稚園までで大丈夫でしょうか?
大部分のお母さん方は、卒園と同時に仕上げ磨きも卒業してしまいます。
この頃、永久歯への交換が始まりますが,前歯ばかり気にして、6才臼歯の存在を忘れているお母さんが多く見られます。場所が奥で、お子さん自身では十分に 磨けませんし、完全に萌えきらない期間が特に注意が必要です。また、萌えたばかりの歯は未成熟で、あまり硬くないので虫歯にもかかりやすいのです。2年生くらいまでは、毎日チェックしたいものです。3~6年生の間で、段階的に減らしていきますが、最低でも週に1度はチェックしてあげてください。

冠をかぶせた乳歯は、正常に萌え変わる?
冠をかぶせる処置は、歯に大きな虫歯ができた時にしますから、多くの場合、歯の中の神経のある部分まで治療がされています。乳歯は、永久歯に交換する為に、根が徐々に吸収してなくなるという、永久歯にはない特質を持っています。しかし、虫歯により歯の神経が侵されたり、治療さ れたりすると、根の正常な吸収が狂わされて、まだ永久歯に交換する時期ではないのに根の吸収が進行し、乳歯を早期に失ってしまう場合と、反対に、根が吸収 されず、いつまでも乳歯が抜けないという状態になる場合があります。

冠のかぶっている乳歯、一見何でもないように見えても、このような事があるので、かかりつけの歯医者さんに、永久歯に交換するまで、よく経過を診てもらってください。

乳歯はどうせ萌え変わるのだから、虫歯になってもかまわない?
このように考えるお母さんは、最近は少ないと思いますが、中には4~5才でたくさんの虫歯をつくってしまったお子さんの歯を見て、「どうせ萌え変わるのだから…」と、ご自分を納得させているお母さんお父さんがいるのではないでしょうか。しかし、健康な永久歯列が完成するには、この乳歯で、しっかり噛んで食事をすることが大切だという事を知ってほしいと思います。

以下に、虫歯を放置すると陥る可能性のある、悪循環を参考にしてください。

乳歯虫歯のキーワード

  • 虫歯が歯の中の神経まで達しやすい(虫歯の重症化)
  • 乳歯虫歯が重症なほど、早く永久歯が萌える傾向がある
  • 虫歯だらけの口の中に永久歯が萌える
  • 永久歯が、萌えている途中ですでに虫歯
  • 歯垢の著しい付着
  • しっかり噛めない
  • 食べる機能が発達しない
  • 顎、顎の関節の成長が不十分になる
  • 永久歯の歯列不正
  • 体の不調(偏頭痛、肩こり、気力がないなど)
  • 軟食傾向
  • 栄養の偏り
  • 軟食は脂肪を多く含む食品が多い
  • 肥満、若年型糖尿病(いわゆる生活習慣病の予備軍)
乳歯がきれいな歯並びで安心して大丈夫?
6才前後で、下の前歯2本が永久歯と交換します。通常その1年前頃から、上下共乳歯の前歯がすきっ歯になり、交換間近には、大きな永久歯が萌えるに十分なスペースができるよう顎が成長します。この時期に歯科医院によく訪れるのは、乳歯が抜けないうちに内側から永久歯が萌えてきた、というお子さん達です。乳歯の歯並びがきれいだからといっても、 顎の成長が少ないと、歯が重なってガタガタに萌えてしまいます。このような場合、すべてではありませんが、将来矯正治療が必要になる可能性が高いです。かかりつけの歯科医院で経過を観察してもらい、必要があれば、適正な時期に矯正することをお勧めします。

顎の成長不足は、いろいろな要因が重なった結果として現れるもので、その子その子、何が原因しているかははっきり言えませんが、大きな要因の一つに、現代 における食習慣の変化が挙げられます。たとえ虫歯がなくても、軟らかい食品ばかりの食生活では噛む回数が減り、十分な顎の成長は期待できません。また、 しっかり噛んで食べる習慣は、新生児から乳幼児期にかけて、食べる機能を段階的に学習し獲得する事が基本になります。

遺伝も要因の一つとして考えられますが、一部を除いて、多くの場合はこの要因は小さいと思います。形態的に顔や骨格が似ることはありますが、歯列不正や噛 み合わせ不良を起こさせる遺伝子はありません。地球上に生まれたものは、地球の環境に適応できるDNAを持っているはずです。子供を育てる上で、親から受 け継いだ遺伝情報を全て発揮できる食環境生活環境を整えたいものです。

スポーツドリンクで水分補給はOK?
子供が風邪などで高熱をだした時、お医者さんは「水分を十分摂るようにしてください。OOOスウェットなんか良いですよ」と話す時があります。 お母さん方の中には、何々が良い、という事が強く頭に残り、「高熱で体力を消耗し、食事も摂れずフーフーしている子供には」という条件を忘れてしまう人がいます。あるお母さんは、子供が寝る前に必ずスポーツドリンクを与えていました。お母さんは、体に良い事をしたと信じていましたし、これが原因で重症の虫歯になったなんて思いもよりませんでした。

近年、環境汚染により水道水がカルキ臭く、おいしく水が飲めません。そのせいか、清涼飲料水の消費量が増え、今ではあたりまえのように、清涼飲料水が日常生活の中に入り込んでいます。しかし、清涼飲料水は水の代わりにはなりません。その中には、多くの糖分が含まれており、知らず知らずのうちにかなりのカロリー摂取をしてしまいます。

飲み物で満腹になってしまうと十分な食事が摂れず、いろいろな問題(栄養バランス、噛まない、肥満、虫歯)が起こりやすくなります。もちろん、たまにおやつと一緒にとか、パーティにジュースは良いでしょう。

しかし、頭に残してもらいたいのは、基本的に飲み物で栄養は摂らないという事です。

水やお茶はエネルギーがなく、何の心配もいりません。(牛乳はここでは食べ物とします。良く噛んで飲めといいますよね)

テレビを見ながらの食事はあたりまえ?
ほとんどのお母さんたちは、テレビを見ながら食事をする事はあまり良くないと思っていますが、ついついそうしてしまうのが現状でしょう。では、どうしていけないのかというと、まず第一に、テレビに夢中で食べ物をしっかり噛まずに食べてしまうという事で す。一口5~6回噛んで飲み込んでしまう子や、しっかり噛んでいないので飲み込めず、口の中一杯に食べ物を溜め込んで、いつまでもモゴモゴしている子もいます。第一行儀が悪いです。たまに親が話したりすると、「うるさくて、テレビが聞こえないよ!」なんて言葉がでるようですと、かなり重症です。

次に、食事の姿勢が悪くなるという事です。王様のように、真正面にテレビを置いて食事をする子供は稀でしょう。たいていは右か左、もしくは子供にテレビを見せないようにと、後ろにする場合があります。もちろんテレビに夢中ですから、常にテレビの方向に首をひねり、時には振り向いて食べます。この習慣が長いと、下の顎のズレ、歯列不正、顎関節の異常を起こす事があります。成長期である子供は、大人と比べその影響は短時間 で出やすいので、気をつけたいものです。

とにかく、今は録画という手段があるのですから、どうしても見たいテレビは録画し、食事中はテレビを消しましょう。そうすれば家族の会話も弾み、楽しい雰 囲気で食卓を囲む事ができます。特に、お子さんにとって食事は、ただ体に栄養を取り込むという事ではなく、心や体を健康に育てる基礎になるものと理解してください。